井上ジョー "Something Beautiful"

美しい何か。

 

この曲は、2018年のアルバム 'Wet and Dry' に収録されています。格調高く力強い曲調は、聴く人を勇気づけること間違いありません。

 


Joe Inoue "Something Beautiful" Music Video (Short Ver.)

 

まずはこの歌声が良いですよね。MVのコメント欄を見ていると「渋い」「カントリーっぽい」「ヒゲ面の親父が歌ってるのかと思った」などなど。確かに、力強い歌声です。歌いだしの I... とか最高にエアロスミスっぽいなぁって思いましたがちょっと違いましたね。にしてもリヴ・タイラーはきれいだなぁ。

 


井上ジョー "Something Beautiful" MV+解説

 

この曲解説でもおっしゃってますが(09:55頃~)、この曲は悲劇 tragedy を乗り越える曲なんですよね。だから、こう聴く人を奮い立たせるような、そういった狙いでこの歌い方を選んだんだと思います。実際、'Farmland' の "Doinaka Lifestyle" とか "Country Road" ではだいぶ土臭い歌い方してますけど、そういう渋さとは別物です。

そんなボーカルをより効果的にしているのが、トラックです。ベースの役割をするピアノ、スネアのフラム(両手で同時にたたく感じ)とバスドラが中心のドラム、そしてお得意の上の方でなんか鳴ってるシンセを基本としています。シンプルながらボーカルと絡み合うピアノの低音からは、パルテノン神殿の柱のような、頼もしく荘厳な印象を受けます。ドラムの音数をできるだけ減らした感じも、荘厳さ、力強さを増すのに寄与しています。

途中からうっすらストリングスが加わってきて、サビに向けておごそかに盛り上がっていき、そしてギター!! 

サビで歌い方が変わってるのもいいですよね。いわゆるウィスパー系ってやつです。つらい状況ながら光が見え始めている、そんな現実を歌う時は力強く。「ぼくら」が信じる理想郷を歌う時は囁き。

今ここで理想郷と言ったのは、この曲での home や where we belong って、単純に居場所とか家ではないように感じたからです。こういう具体化をするのはこの曲の世界観を壊す可能性もありますしあまり良くないかもしれませんが、「差別とか偏見とかがあふれるこの世の中はたしかにつらいけど、そういった不条理がない世界へとぼくらは向かっていくんだ!」みたいに言うと、私が思った印象には近くなると思います。そういった、心の中では皆が待ち望みながらも残念ながら今の世の中では遠い遠いユートピア。あくまで個人の感想ですけどね。

個人の感想ついでにもう一歩深く語ってみると、一見希望に満ちているように見えるこの曲が真逆の性質をはらんでくるように思えたんですね。ちょっとオーバーな感じになるのであくまで一解釈として捉えてほしいんですが、この理想郷が現実の世界でいつか達成可能な場所というよりは、精神的な世界という場合もあると思います。このつらい世から飛び出して、あの場所へ飛び立つんだっていう。

特定の宗教を信仰していない立場ながら、私の宗教に対する感覚は「生きるうえでの拠り所」です。どんなにつらくても「でも神は見ておられる」という風に考える、その逆接こそが宗教を信仰することの核心だと思っています。生を与えてもらい、ともに生き、最後にはその御許に還っていく。まぁ現世で体験できるのは真ん中の「ともに生きる」の段階だけですが。そして、これはあくまで「生きるよすが」という機能の問題なので、必ずしもその「神」が人の形をしている必要はありません。

この歌での home や where we belong が、その「神」の役割を果たしているとも考えられるなぁと思ったわけなんです。私は "Detroit: Become Human" というよくできたゲームがとても大好きなんですが、そこで出てくるアンドロイドたちも、機械ながら rA9 というモノを信仰しています。そのためには命をも捧げられるモノ。そこへと飛び立っていく歌だとしたら? ちょっと大げさな話になってしまいましたね。

ジョーさんの宗教観についてのジョートークがあったはずなので、ちょっと見返してみようかなというお気持ちです。