井上ジョー "Zawawa"

ざわ... ざわ...

 

この楽曲は、2016年のアルバム 'Joepop #1' に収録されています。素朴なテイストの片思いソングで、高校時代を思い出させてくれるような一曲です。

 

歌詞中、『届かぬ想い 実らせて』という部分がありますが、これって「募らせて」の方がしっくりきますよね。だって、実ったら恋が成就しちゃってますから。こればっかりは意図を汲み取ることができませんでした。

 

歌詞を聞いても断定はできませんが、今一つさえない男子が同級生のあの娘に恋してる、というのが基本的な構図でしょう。別にクラスの人気者が密かに恋心を抱く相手がいたっていいですし(それはそれでなんだか応援したくなる)、ましてや性別を限定する必要もないんですが、ここではこういう構図のもとに話をしてみましょうか。

 

第二段、あの娘にはまた新しいつれあいができた。そんなとき『ぼく』は「なるほど...」って言うんですね。なんとも分析的な、一歩引いた感想でしょうか。本心ではそれが自分であってほしいはずなのに、実際にはそれが自分でなくて悔しいはずなのに、ただ一つ出てくる言葉は「なるほど」。これほど思いのこもった「なるほど」は、全なるほど史上初でしょうね。

 

この曲にはサビが二回ありますが、『慰めてあげるのに』と『しつこいくらいに』で歌い方が違うのが良いですよね。この二つのフレーズはサビの中で一番盛り上がる部分なので高音で歌われていますが、最初はファルセットで優しく歌っているところを、二番では地声を張り上げて高じた思いをぶつけています。まぁこうした歌い分けはそこまで高等なテクニックというわけではないと思いますが、それでも聞き手の感情を揺さぶることに成功しています。

 

アコースティックギターを弾きながら、部屋の中でうだうだ歌っている感じ。「うだうだ」っていう形容詞には決してポジティブなニュアンスはありませんが、ここでは最高の誉め言葉です。だって、学年のマドンナを想っているんだけど行動には起こせないこのスタンス、「うだうだ」という言葉がぴったりじゃないですか。ボーカルラインも波線を描いていて、どうも踏ん切りの付かない揺れる思いを表現しているようですよね。

でも、頭の中では何回もデートを重ねているんでしょう。実生活では『きみのまなざし』と向き合うこともままならないのに、カジュアルに話しかけられてもびびってしまうだけなのに。決して自分が魅力的とは言えないことは自覚していて、あの娘とは釣り合わないだろうこともわかっているけど、きみを楽しませたり慰めたりという情緒的な部分でなら満足させてあげられるはずだとも思っている。

 

とにかく一言で言えば、この曲は「痛い」んです。アコギできみに捧ぐラブソングを作ったり、好きなのに引っ込み思案だから行動に起こせなかったり、ともすると妄想に走ったり。『ぼく』がとにかく「痛いやつ」を徹底しているのが、この曲の素晴らしい部分です。

 

ある人からの受け売りですが、この類の「痛さ」を売りにしているバンドもあります。Back Number です。ディスるつもりはなくて、実際良い曲をたくさん作ってるバンドだと思いますが、その根底にあるのは「痛さ」なんです。Back Number の世界観って「そこの曲がり角からきみが出てきたらなぁ」とか「できればきみには隣にいてほしいんだけどなぁ」とか、概して夢見がちで男らしさみたいなものがないですよね。なにせ「高嶺の花子さん」ですからね、基本的には可能性が絶望的な恋なんですよ。

また、そういうことを福士蒼汰とかが歌ってると逆に鼻につくような印象にもなりかねませんが、Back Number の面々は(限りなくいい意味で)手が届きそうなビジュアルで、いかにもそういったことを歌いそうなビジュアルなんです。こうした要素が、歌詞の切ない感じと相まってあの世界観を構築するわけです。

「あぁこういうこと言うやつって痛いよなぁ」となんなら笑いながら、それでも自分を振り返ったときに心の痛みにも向き合うことができるような、多くの人が共感できるような名曲をたくさん生み出してきたのが Back Number です。メディアではそれを「人間味あふれる」と言ったりしますが、要するにこういうことなんではないかと思います。本当に素晴らしいバンドです。

 

この曲のもうひとつ見方としては、一度付き合っていたけど別れてしまったというのもありかもしれません。まだ恋心がくすぶっていてやりきれない感じ。これだとちょくちょく歌詞とそぐわない部分もありますが、片思いの曲と思って聴くのとは違った味わいになってくると思います。

 

バンドアレンジの話をすると、何となく全体的にのっぺりとした印象の曲ですよね。途中からストリングスが入ってきて奥行きを演出してはいますが、強弱の概念が希薄でサビでぐわっと盛り上がるような感覚は皆無です。ダイナミズムで言うと "Jiwa Jiwa" とかが良い見本ですね。ああいったサビで持っていかれるような感覚というものがこの曲にはありません。個人的には歌詞の世界観が大好きなんですが、音楽的にはまだまだ成長の余地があるのかなと思います。アコースティック一本にしてみたり、エレキギターも使ってまるっきり印象を変えてみたり、再録したときの可能性は無限大ではないでしょうか。

 


ポールダンスで玉が逝った

 

この曲がBGMとして使われている動画の中では一番好きなやつです。完全なるネタ動画で、見ても人生の役には立ちませんが息抜きにはぴったりです。へそ出しが似合う男性っているんですね。