井上ジョー "Rude"

英語と翻訳についてじっくり考える記事です。結構な長編になりましたのでお時間のある時にどうぞ~。

 

最近私が個人的にとても気になっている「ジョーさんがめっちゃ対訳してる」話です。

  

今日のトピック:"Rude" by MAGIC!

 


マジック! 『「ルード★それでも僕は結婚する」 日本語訳付』

 

世界的に話題になった MAGIC! のデビュー曲 "Rude" の日本語訳付き MV です。こちら、驚くことにジョーさんが対訳してるんです。この頃のジョーさんは TENGUBOY 名義での活動の真っ最中で、他アーティストに楽曲提供しまくってた期にいました(詳しくはこちらを)。MAGIC! の所属事務所がソニーだった縁で、これまたソニー系の Ki/oon に所属していたジョーさんに声がかかったっていうことだと思います。

 

ちなみに、ジョーさんの事務所歴は Wikipedia に記載があって、 曰く、2007~2010年に井上ジョー名義で所属、その後 2012~2014年にTENGUBOY名義での所属とのこと。おそらくそれ以外の時期に関しては特にレーベルには所属していないと思われますが、無所属(と思われる)の期間にも Ki/oon の20周年イベントにお呼ばれされたりしてるので、あんまりそういう大人の事情とか気にしない会社なんでしょうかね。

にしても、最近ちょくちょく話に登る TENGUBOY 名義での活動再始動はさすがに出来なさそうですよねぇ。レーベルに所属してないのに名前使えるのかしら。まぁ Joe Inoue 名義で TENGUBOY 風の曲を出せばいいだけなんですけどね。

 

閑話休題、日本でも "Rude" はチャート最高4位を獲得するなど大人気を博しまして、ジョーさんの対訳を差し置いてファンブログでも多くの対訳記事が作成されています。ここでは、他のファンブログとジョーさんの対訳を見比べた結果をご紹介したいと思います。まずはどんな歌か聴いてみましょう。

 

歌詞をCheck!!

 

"Rude" by Magic!

 

Saturday morning jumped out of bed

And put on my best suit

Got in my car and raced like a jet all the way to you


Knocked on your door with heart in my hand

To ask you a question

Cause I know that you're an old fashioned man, yeah yeah

 

Can I have your daughter for the rest of my life?

Say yes say yes cause I need to know

You say I'll never get your blessing till the day I die

Tough luck my friend but the answer is 'No!'

 

Why you gotta be so rude

Don't you know I'm human too

Why you gotta be so rude

I'm gonna marry her anyway

 

Marry that girl

Marry her anyway

Marry that girl

No matter what you say

Marry that girl

And we'll be a family

Why you gotta be so

Rude

 

I hate to do this you leave no choice

I can't live without her

Love me or hate me we will be boys

Standing at that altar

 

Or we will run away

To another galaxy you know

You know she's in love with me

She will go anywhere I go

 

Can I have your daughter for the rest of my life?

Say yes say yes cause I need to know

You say i'll never get your blessing till the day I die

Tough luck my friend cause the answer's still 'No!'

 

Why you gotta be so rude

Don't you know I'm human too

Why you gotta be so rude

I'm gonna marry her anyway 

 

Marry that girl

Marry her anyway

Marry that girl

No matter what you say

Marry that girl

And we'll be a family

Why you gotta be so

Rude

Rude

  

Can I have your daughter for the rest of my life?

Say yes say yes cause I need to know

You say i'll never get your blessing till the day I die, tough luck my friend

But no still means 'No!'

  

Why you gotta be so rude

Don't you know I'm human too

Why you gotta be so rude

I'm gonna marry her anyway

 

Marry that girl

Marry her anyway

Marry that girl

No matter what you say

Marry that girl

And we'll be a family

Why you gotta be so

Rude

Why you gotta be so

Rude

Why you gotta be so rude?

 

 

翻訳のお話

なかなかいい訳詞だと思いませんか? では、これからは他のファンブログを覗いてみた感じを踏まえて、ジョーさんの翻訳のユニークな点をご紹介したいと思います。

 

たとえをどう訳すか

第一段は状況の提示なのでそこまで訳に揺れはありませんでしたが、興味深い点が一つ。たいていのブログがジェットと言う単語を直喩として対訳にも利用(たとえば「ジェット機みたいに急いだ」)していますが、ジョーさんは「かっ飛ばす」と意訳しているんです。MV の字幕なので文字数が制限されているというのもありますが、すっきりしてていですね。

 

第二段のはじめ "Knocked on your door with heart in my hand" のフレーズ。これは訳の揺れが大きかったですね~。「心の扉を手でノックする」とか「心を込めてノックする」とかいろんな訳がありました。ジョーさんの訳は「僕は緊張しながらドアをたたく」。これが英語での慣用表現なのかまでは調べきれませんでしたが、そう言われてみると何となくイメージがわくような気もします。緊張すると心拍数が上がりますが、緊張しすぎて手までバクバクしてる感じでしょうかね。

 

続く "To ask you a question" も興味深い。これは単純に「あなたに質問をするために」みたいに訳せます(実際他ブログもこう訳しています)。でも。ジョーさんは「正々堂々と答えを聞きに来たぜ」。意訳も意訳ですよこれ。ただ、こういった語尾や言葉遣いを強調・脚色することで、ストーリーが際立って感情移入がしやすいっていう部分はありますよね。これが間違った方向に向かうと改悪って言われてしまうわけですけど、アーティストがメロディや韻に載せられなかった部分を補ってくれている場合もありうるわけで。結局は、翻訳者のポリシーや意図によって、翻訳の在り方は変わってくるわけです。

 

直接話法と間接話法、そして親父像

第三段は、お父さんと主人公の問答です。こちらも省略・追加がなされているわけです。ここには、ジョーさんと他ブログとの大きな訳の違いがあるんです。"You say I'll never get your blessing till the day I die / Tough luck my friend but the answer is 'No!'" の部分。ジョーさんの訳、(登場するごとにフレーズが変わるので引用はしませんが)とてもシンプルなんです。この辺は特に口語っぽくてニュアンスを出しやすい部分なんですけど、にしても透明に近い癖のない対訳です。他ブログでは文字数に制限もないのできちんと訳してますが、MV で模範解答が示されなかったからか解釈が分かれています。

 

前半部、「『俺(お父さん)は死ぬまであんた(主人公)の恩恵を受けることはない』とあなたは言う」みたいにしてるブログが多いんですが、これは直接話法的翻訳です。正式に書けば You say, "I'll never get your blessing until the day I die." です。"" の中はお父さんのセリフそのままの引用なので、カッコの中と外で I や you の指している人物が違います。もっとわかりやすくするため置き換えると、The Father says, "HE will never get MY blessing until the day HE dies." です。お前の世話にはならんぞ若造! ってことですね。

一方、私が個人的に思うのは、間接話法的翻訳です。つまり、You say (that) I'll never get your blessing until the day I die. であって、The Father says (that) I will never get HIS blessing until the day I die. ということなわけです。「僕は死ぬまでお父さんの祝福(承認)を受けることができないとお父さんは言う」。

 

整理しますね。

直接話法的に訳すと「『俺は死ぬまであんたの恩恵を受けることはない』とお父さんは言う」

間接話法的に訳すと「僕は死ぬまでお父さんの祝福を受けられないとあなたは言う」

ジョーさんは、ここについては言及していません。

 

"Tough luck, my friend" についても、ジョーさんは特別ニュアンスを強調して訳していません。「残念だったな "友" よ、でも答えは NO だ」っていう皮肉なのかなって思いますが、ジョーさんはシンプルに主人公を突っぱねる典型的父親のセリフを採用しています。

 

 

ということで

全編訳を見比べる元気も余裕もないのでこの辺にしておきますが、いかがでしたか? 皆さんも何か思うところがあったでしょうか。

"桜坂" でも言及したんですが、我々リスナーは二本の文章を見比べてああでもないこうでもないと干渉することができるんです。自分だったらこう訳するだろうけど、じゃあここにはどんな意味がこもってるんだろうてな風にして、作品をより深く味わうためのツールにすることができるんですね。

ここでのジョーさんの翻訳は、あまり原典にとらわれ過ぎず、茶目っ気を出すことで感情移入させやすくすることを選んだんじゃないかなと思いました。たまに原詞からの逸脱も見られましたが、それは直訳せずに日本語での慣用句に直す場合だったり逆に日本語には馴染まない表現になるので逐語訳しなかったりと、あくまで工夫の結果だったと感じます。

いずれにせよ、これが好評だったのかこの後 MAGIC! の 1st と 2nd アルバムを全曲対訳しています。残念ながら 3rd アルバムではお声がかからなかったようですが、今後も翻訳家としてのお仕事も増えることを期待します。