井上ジョー "American Double Standard (死んだフルーツの葬式)"

壮大なタイトルのこの楽曲は、前回リリースに引き続き社会派です。

 

2021/04/16 に発表されたこの曲。ほとんど語りに近いラップを聴いた後には、何か暗いものが胸の中にずっしりと残ります。

 

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歌詞はこちらから。

 

今までアメリカ関連の動画はたくさん作られてきましたが、その集大成的な楽曲となっていますね。

この楽曲は、ジョーさんが思うアメリカの問題点をひたすら why? と問いたてるものです。「○○なんてこれは間違っている」ではなくて「○○ならなぜ◇◇なの?」と論理的に持論を展開しています。演説のスクリプトに使ったって効果的でしょうね。

 

 

曲の内容については上の動画で自ら語られていますので、ここではいつにも増して私の考えたことをご紹介できればと思います。

 

個人的な意見ですが、ジョーさんの曲の中には、時々本当にあったことを歌っているように感じられるものがあります。失ってしまった誰か大切な人に向けた、切実でリアルで生々しい感情をひしひしと受け取れるんです。

 

アーティストの創作物がすべて実体験に基づいているとは思いませんし別にそうであるべきだとも感じません。むしろフィクションな世界をよりはっきりと想像できる感受性のある人こそがアーティストなんだと思うので、結局はその真実度よりもどんな世界を鑑賞者に提示できるかが問題なんだと思います。

そういう視点で見ると、ジョーさんの楽曲は自身の体験に基づいてるものが割合多そうですが、その1/3は特に自分の痛みがベースとなっているように感じます。ジョーさんが日系アメリカ人・アジア系であることや価値観が人と違うこと、つまりは自分が自分であることのせいで、自分がつらい思いをする場面です。こういった "Panic Attack" とか "Hybrid Generation" などの楽曲群はわりと動画のネタになっていたりもするので、実体験をもとにしているんだろうなぁとわかりやすいですね。

 

一方で、人の痛みを出発点として楽曲を製作している時があるのではないかと私は思うのです。明言こそされていませんが、社会の不条理とか誰かを失ってしまうこととか、そうした外部からの負のエネルギーを芸術作品に昇華するケースがたびたびあるのではないかと感じるのです。

"車" という楽曲があります。日本時代の曲なので、20代前半とかに書かれたものだと思います。私は初めてこの曲を聴いた時、ちょっとした恐怖を感じました。自動車事故をテーマにした短い詞なんですが、大切なものの喪失からくる自暴自棄の加減がもう恐ろしくて。どこにも救いのない、暗い沼のような眼をしたドライバーが見ている世界を実際に見てきたかのような生々しさがあるんですね。

 

こうした私の中で半ばトラウマ曲となっている曲を振り返ってみると、実際に体験しないと書けないような詞がたくさんあります。それは、この楽曲でも同じです。

この曲はもう前提条件として、アメリカで生きてきたジョーさんが通り抜けてきた環境について歌われています。教育・食文化・医療制度・銃規制・ポリコレ・米国至上主義…。この曲のすべてが自身が経験してきたもしくは接してきた問題であることは間違いありません。

 

となると、気になるのは薬物乱用に関する歌詞です。前半部では、複雑で不完全で矛盾をはらんだ医療制度に関する話の流れでコカイン中毒で亡くなる人について言及があります。この後すぐに話題が転換していくので、単なるトピックのうちのひとつなんだなぁと最初は思ったんですが、曲の最後でもまたコカインについて言及しているんですね。しかも、こちらは誰かに言い聞かせているような語り口なんです。

 

この楽曲は基本的に特定の人へのメッセージというよりは国や社会に向けているものです。銃規制の必要性を訴えてはいますが、銃規制反対派を攻撃しているわけではありません。昨今の人種差別運動を念頭に置いた歌詞もありますが、a certain group という普遍的な用語を採用していて、その当事者についても何を支持するかについても明確には語っていません。ここで大切なのは、ジョーさんは問題提起の必要性を感じたからこの楽曲を作ったのであって、特定の人々を攻撃したり擁護したりというように自分の意見を発信する意図はないということです。

そんな中で最後の文言を見てみると、この部分は際立って見えてきます。ジョーさん自身はアルコールやドラッグには見向きもしません(一度薬物についてのとてもよいメッセージ動画を作ったことがあったんですが、非公開になってしまいました)ので自戒の意味は薄いと思います。部外者からすれば余計なことですし、あまり詮索するような真似もしないでほしいんですが、薬物乱用で誰かを失ったことがあるのではないかなぁなどと感じてしまうんです。

 

薬物を使うな、というのは中学校でも言われる真新しさの欠片もないメッセージではあります。ただ、その伝え方次第では心に迫るものがありますよね。実際に薬物乱用のリハビリを通り抜けた人物が涙ながらに自身の体験を語ったとすれば、誰でも心を動かされるでしょう。

ここの歌詞ではそうしたお涙ちょうだいなテイストこそありませんしリズム上わりとさらっと歌われるパートとなっていますが、この命令形にはなおさら伝えたかったメッセージが強く込められているように感じます。

 

 

ジャケ写は "Onigili Burger" の色違いとなっています。'ME! ME! ME!' のジャケ写もビビッドな色違いが何種類かあったなぁなどと回想しました。

 

最後に、ジョーさんが概要欄で紹介している関連動画を載せておきます。

 

先日リリースされた "Onigili Burger" に関する動画です。

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学校給食についてのお話です。副題はここから取られています。

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かなりコアなトピックですが、複雑な保険制度がアメリカ人の医療への意識を低くさせているのかもしれません。

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病院でのあれこれをコントにした一本。この頃の動画は勢いがあってよいですね。

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