井上ジョー "Salud Monkey"

井上ジョー的ファンク!?

 

シングルとして発売されたこの曲。ここ最近のエレクトロな雰囲気とは袂を分かち、バンドサウンドに回帰した爽やかな一曲です。

 

 

にじみ出る新曲の予感

 

 

2021/09/21 の夜、満を持して公開された楽曲。というのも、今月始まったくらいから、ずっと新曲出すよ~ アピールがすごかったんですよね。

 

 

などなど。冒頭のツイートで第一弾って言ってますし、この曲はそれほどロックに振ってるわけでもありませんので、新曲のリリースラッシュが起こることは必至です。お財布のヒモを緩めておきましょうね。

 

販路革命

 

さて、曲の話に入っていく前に、この楽曲から第三次販路革命が起きています。まぁ私が勝手に言ってるだけなんですが。

 

第一次販路革命は、2016年、ジョーさんが CDbaby で音源の販売を始めたことを指します。私がジョーさんに出会ったのはこの革命後なので、当たり前のようにネットで曲を購入してきました。それ以前のことは推測しかできませんが、日本のメジャーを降りてからは、FacebookSoundcloud といった媒体を通して楽曲を発表していたようです。アーティストが自分の裁量で楽曲を発表できるというのもジョーさんの歴史的には革命なわけですが、こうしたサイトでは音楽の販売は出来ない(はず)というのが一つ気になるポイントだったはずです。今までは音楽的探究心とファンへの愛だけを燃料にして活動してきたのが、CDbaby に出会って初めて、自分のテンポで作った音楽を売ることができるという持続可能な活動モデルにたどり着けたのです。ちなみに、CDbaby 導入と同時に iTunes にも進出しましたが、こちらは手数料が高いので早々に撤退しています。

 

第二次販路革命は、願っての事ではなくなかば強いられる形で発生しました。2020年4月に CDbaby がサイトの運営を終了したのです。正確に言えば事業の一部は今でも続いているはずですが、まぁ我々が使用していたサービスは終わってしまいました。ということで、ジョーさんは販路を自身のHPに変えました。

 

そして、今回の第三次販路革命。なんと次に活路を見出したのは Bandcamp というサイト。どうしてHPだけでは足りなかったのかはわかりませんが、ジョーさん自身、個人情報の取り扱いなどで Wix での販売に多少の不信感を持っていたようにも記憶しています。Bandcamp であればインディーズのバンドも使用するほどの地位を築いていますし、よりワールドワイドに使用可能ということなんでしょうかね。ちなみに、Bandcamp であれば Paypal のアカウントが無くてもクレジットカードだけで買える、という利点もあるようです。

 

Bandcamp 移行に伴う変化

 

で、今回からは Bandcamp を通した販売ということになったわけですが、移行に際していくつか変わった点があります。

 

ひとつは、2020年半ばから断続的に発売されてきたシングル計12曲が、二つのアルバムにまとめられたという点です。2020年6月からの一か月間にリリースされた6曲を 'The Wish That Never Came True'、2021年の3月から7月にリリースされた6曲を 'Toriaezu EP'と題しています。前者のジャケ写は、"Dancing Away" のジャケットからタイトルを変えて再利用したもので、後者のものは "Onigili Burger" と "Wankoro Boo" 以外のジャケ写を四分割で配置したものですね。'The Wish' の方は「叶わなかった夢」といった意味で、なかなか思いのこもったタイトルかと思いますが、「とりあえずEP」って。

 

ふたつめは、いろんなものの価格が変わったことです。

まずはシングルの値段。今までは新曲は一曲 $2.5 で販売されてきましたが、今回の移行から $3 に値上がり。ちなみにHP で売られている楽曲も、一律で一曲あたり $3 に値上げされていますのでご注意を。'Vintage Collection' だけなぜか、一曲だけ買っても四曲全部買っても $3 ですので、購入を見合わせていた方は今がチャンスかもです。

その代わりというか、上記二枚のミニアルはかなりお得です。今まで $2.5 × 6曲 = 総額$15 かかっていたものが、今では $10 で買えます。一曲当たりで $1 弱ずつ安いことになりますね。これらのミニアルは HP では売られていませんので、Bandcamp に移行してくれた人限定特典となりますね。

あとは、昔発売されたアルバムの値段もかなり上がっています。

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音楽とかそういった文化的なものの価値・値段って定義しづらいものですし、どんな有名な芸術家もパトロン(後援者)のおかげで生きていけてたわけですから。まぁそれはルネッサンスとかお抱え宮廷画家とかそういう時代の話ですけど、これが現代の推し活に繋がっていると思うと感慨深いですね。ちょいと高くなったとしても、ファンはサポートしてなんぼです。

 

やっと曲の話をしよう

 

お待たせしました。曲の話をしましょうか。

 

今年に入ってからリリースされた 'Toriaezu EP' の6曲は、どれもロック路線ではありませんでした。トラップと呼ばれるような、ビートに特徴のあるエレクトロな曲群を意識的に作ってきていました。これは近年のメインストリームの音楽テイストがずっとエレクトロだったことが動機となっていると思われます。ジョーさんのルーツがロックであることは誰の目にも明らかですが、幅を広げるためか時代に迎合してか、こうしたジャンルを試してきていました。

 

さて、そんな中で世界にはロックが戻りつつあるようです。いや、私はあまりその波を感じられていませんが、そういう香りがしているようです。

 

私もロック畑の人間なので、ジョーさんがロックに回帰していくのは嬉しい限り。そんな中で発表された新曲。さぁて、どんなもんだ!? と思って聴いてみると...

 

ロックというよりファンクじゃね?

 

という感想を抱いた人もいるのでは? 確かに、最近のエレクトロなテイストを脱し、ギター・ベース・ドラム・キーボードというベーシックな構えです。特に力強いドラムのサウンドはジョーさんらしくて喜ばしい限りです。

 

では、この曲をファンクたらしめているのは何か。まずはグルーヴィーなベースでしょうね。ボーカルのエフェクトのせいでそんな感じがしませんが、ヴァースなんてもうベースとスネアだけで歌ってますもの。この曲を聴いていると自然と体がノッてしまうのは、曲を通して骨太なリズム隊がビートをかなり強調して演奏しているためなんですね。

 

ボーカルにも特徴がありますね。ファルセットです。これをファンクと言っているときには、私はプリンスをかなり念頭に置いています。この曲とそんなに似てるわけでもないですけど、なぜだか "Pop Life" が思い出されるんですよね。

youtu.be

この曲では殿下はファルセットを使ってないんですけどね。しかもファンクならレッチリの影響の方が強そうですけどね。え、レッチリはファンクじゃない? …とにかく、ジョーさんがプリンスとかファンク界のエッセンスを消化して曲を作ったら "Salud Monkey" になるんじゃないかなぁというボヤっとしたイメージです。

それとは別の効果として、メインボーカルをファルセットで歌うとおしゃれな印象になりますね。スマートで都会的な感じがします。

 

あとは、ギターの音作りも秀逸です。ファンクに特徴的な、カッティング奏法ですね。高い音でチャカチャカしてるのがこれです。ファンクでは低音で存在感のあるベースが重宝されますので、ギターは低音を追い出されて高いところに行くわけです。あとはギターもベースもそれぞれ同じフレーズを繰り返す、というのも大きな特徴です。ファンクではノリやすさが命ですので、複雑に展開せずに同じフレーズを繰り返すことで、分かりやすく体を揺らすことができるようにしています。

 

じつは初めてのファンク?

 

ジョーさんは今までに200もの楽曲を発表してきています。そのうち、ファンキーな曲はどれほどあったでしょうか? 'Joepop #1' にはずばり "Funk" という曲もありますが、その実こちらはあまりファンキーではありません。途中スラップベースのソロがあって、そこだけかなりファンキーなんですが、曲を通してはそれほどではありません。

その他、ジョーさんの曲を振り返ってみても、やはりファンクっぽい楽曲は思い当たりません。この曲はわりと聴き馴染みの良い部類ですのでライトなファンクと言えるかもしれませんが、初めてのジャンルへの試みとしてはうまくいったのではないでしょうか。

 

不思議なタイトル

 

単刀直入に言うと、salud はスペイン語、monkey は英語ということで、由来が違うんですね。それぞれ「乾杯」「サル」という意味ですので、カタカナで読めば「サルー・モンキー」、直訳すれば「乾杯ザル」といった感じでしょうか。

こんなタイトルからわかるように(?)、この曲は日本語に取り入れられたスペイン語由来の単語の読みをひたすら訂正していく、というものです。Paella とか San José とか Los Ángeles とか。スペインバルとかに行って、乾杯って言う時に salud を「サルー!」って言う人がいるかもしれませんが、猿じゃないよ、ほんとは違うんだよ!! っていう歌ですね。なので先ほどのカタカナ読みも「サルード・モンキー」というのがより正確なのかもしれません。

ついでにジャケットの話もしますが、これはとうとう何の写真なのかわかりません。うぅん、顔でしょうか? しばらく眺めてれば何か見えてくるのかもしれません。

 

まとめ

 

ファンクというジャンルをジョーさんが本当に意識して作曲したかはまだわかりませんが、こういった切り取り方をして語ってみるとなかなか面白い発見ができたんではないかと思います。まだまだリリースは続きそうですし、ますます目が離せませんね。