井上ジョー "Dancing Away"

チク、タク、チク、タク・・・

 

2020年夏 怒涛のシングル祭り第四弾のこの曲。ウクレレがフィーチャーされた曲は "Plot or Flat" 以来でしょうか?

 

 

歌詞は note に載ってるのでぜひチェックしてくださいな。ここでは日本語訳を交えて、わたしが思ったことをご紹介していこうと思います。

 

第一段は、チク タク チク タク・・・という時計の針の音を背景に情景が描写されています。ちなみに、若い世代を中心に人気を博している動画アプリ Tik Tok も、おそらく由来は同じく時計の針が進む音です。ドラムの音像も心なしか時計の音を意識しているように感じます。

Time holds still は「時が止まったまま」くらいの意味で捉えればいいでしょう。うん? 時計の音がしてるのに時が止まってるってどういうこと?

I dance with you は「きみと踊る」ですね。

一つ一つ訳してみたところで、ひとつあなたにお聞きしたいことがあります。ここでの時計の音って、どういう間隔で鳴っているものだと思いますか? 一秒おき? 10分おき? 物理的な時計って精密さが何よりも大切なものですけど、対して私たちの中にある「時計」ってどうでしょうか。友達と過ごす時間は早く過ぎるように感じるけど、つまらない映画だと長く感じる・・・でも三時になればおなかが空くから腹時計は正確だな・・・。この曲に出てくる時計は、どんな風に時を刻んでいるんでしょうか。きみと踊ってると、時が止まってるみたく感じるよ(時がたつのも忘れるよ、ではないってのもいいですな)という表現からは、どんな世界がみえてきますか?

 

第二段は唯一の日本語パートですね。この曲に漂う浮遊感は、こういったフレーズたちから発せられてると思います。共感できるようなできないような、そうした微妙なラインを行き来する重心の置き方がこの曲の一つの聴きどころであります。ちなみに、ベースの音がとても弱いことにお気づきでしょうか? 二番のサビにならないと登場しないんですね。音楽的にも「地に足がついてない」んです。それでもそのまま飛んでいかないのは次第に骨太になっていくドラムのおかげです。曲が進むにつれてどんどんダイナミックにさせていくことで、浮遊感が感動に昇華されるわけです。

余談ですが、縁語ってご存知ですか? 百人一首などに代表される和歌などで、ある言葉と関連する言葉たちのグループのことですね。簡単に言えば連想ゲームみたいなものだと思います。この段に登場する「低すぎる天井」というフレーズは、ジョーさんの中では「夢」と結び付きの深い単語のようです。詳しくはこの動画の11:50から。

 

第三段はこの曲の中ではけっこう詳細な描写です。「きみがぼくに踊り方を教えてほしいって言ったとき ぼくの心は奪われた」。言ってること自体はとてもわかりやすい。前後の文脈は、みなさんにお任せしたいと思います。

 

第四段以降、サビに入ります。「踊ろう 踊ろう 映画のいちシーンみたいに きみの呼吸を感じる」。この曲は三拍子(厳密には6/8拍子なのかな)なので、ワルツに代表されるようなおしゃれめな雰囲気がはじめから与えられているわけですが、こういった歌詞からロマンティックな成分も入ってきて、もはや神秘的ですよね。

 

主サビが終わって第八段と九段。「きみは震えてる きみはぼくの目をじっとのぞき込んでる  ぼくは弱った子犬みたい? でも心配しないで」「ぼくの腕の中にきみがいる限り ぼくはきっと無敵さ」。ロマンチック・・・。別に悪い意味で言ってるわけではないんですけど、なんだかジョーさんは「弱った子犬が好きな人の前で頑張るキャラ」がとてもあっている気がします。動画見てる感じだとあながち間違ってない気もします。

 

この曲はめずらしく押韻を意識していない歌詞作りになってます。歌詞の内容勝負、音像勝負の曲なんでしょうね。この曲の白眉はドラムアレンジだと思いますから、ウクレレ以外にも耳を傾けてみるとなかなか楽しいですよ。