井上ジョー "Take My Hand"

2020年 夏 シングル祭りの第三弾です。

 

 

歌詞はこちらからご覧になれますよ~。

 

第七段の英詞だけ軽く訳しておきましょう。

 きみと一緒にロックダウンを過ごしたかった

 きみのステキな街で

 世界中 他にどこにもないよ

 ぼくが居たい場所は

 さぁ ぼくの手を取って

 

ロックダウンとは本来「監獄に閉じ込めること」を意味するようですが、2020年のコロナ騒動で新たな意味を付与されました。執筆時点ではまだ具体的な定義を得ていませんが、都市封鎖と訳されることが多いですね。商業施設などを閉めて、人々の外出を制限する政策のことです。この期間中は友達と会うのも憚られる緊張度合いで、結構な人数が日常を制限されたストレスに苦しみました。

ジョーさんはこの期間中も精力的に音楽・動画制作に励んでいましたが、なかなか参ってしまうことも多かったようですね。

 

この曲ははっきりと二つに分けられますが、前半のハードロックな部分ではそんなつらい体験が歌われています。

第一段では、アカペラでいきなりこの曲の核となるテーマが歌われます。第五段でも登場するので、サビのような役割でしょう。ジョーさんの曲には一つや二つ、聴いている側が「おっ?」って思うようなフレーズが含まれていることがありますが、今回は「一掃された」というところでしょうか(この曲は結構全体的に癖の強い歌詞ではありますが)。一掃という言葉は基本的に悪いものを完全に取り除く意味で使われますので、人混みが得意じゃないジョーさんらしい言い回しといえますね。ロックダウン中の人っ子一人いない街なんて楽園のような場所でしょうけど、唯一の問題がジョーさん自身も外に出られないこと。きみと二人、ジャマの入らない街を悠々と歩きたかった・・・。ただ、そんな絶好の機会を逃してしまって、それをひどく後悔していると。シングル祭りの作品群がある程度同じモチーフを根底にしているとすると、これもオランダが絡んでくるんでしょうか。単純にロックダウンの規制を破ってまできみと出歩きたかった、なんて無責任なことはしないと思いますので、二人(以上)でのオランダ旅を逃したことへの悲しみがここでも歌われているんですかね。

第二段。独特な表現はここにも登場します。喪失感とか痛みを例えたものでしょうが、もしくは本当に患ってしまったか。ストレスは万病につながりますし、そもそも体強くないですしね。

第三段と第四段では、執拗なまでに絶望感を歌っています。誰が悪いでもない情勢の中ではありますのでそこまで言うことないんじゃないの、なんて思ってしまいますが、ジョーさんはひたすらに自分と自分の生活をどん底に叩き落していますね。そして第五段で冒頭のフレーズをもう一度。

ここまでは現実の、ままならないこの世の中を歌っていますね。一方、曲調が変わった後半部からは、空想の世界に飛び立ちます。

第六段。ロックダウンの最中なのか、単に人のいない落ち着いたカフェなのかは定かではなく、「なんて事ない」が「何事もなく平穏な状況」を表すのか「平凡な街」を意味するのかによって上の解釈も変わってきますが、どちらにせよここはジョーさんにとって過ごしやすい場所。素敵な午後の時間をきみと過ごしたかったという妄想パートですね。特別なことは何もなくても、ありきたりでもきみといるとすべてが素敵に思えると。特にこの時期では「ちょっと前なら普通」だったことも普通じゃないので、そんな思いも強くなりますね。

そして、第七段。きみと居たかったなぁ・・・ですね。タイトルにもなっている "Take my hand" というセリフが満を持して登場します。最初のハードロックパートでは想像もつかなかったこのフレーズも、ボサノバ調のこの部分でならしっくりきますね。

 

トラックに話を移しましょう。

まずは前半部のハードロック部分。全体的にベースとギターが低音で一体化していて判然としませんが、第一段で一瞬聞こえるスタッカートな感じのベースいいですね。ドラムも手数が多くて主張が激しいですが、この曲に表情をつけているのはやはりボーカルでしょう。二人での混声を基本にしてユニゾンしたりハモったりでメリハリをつけつつ、歌詞カードには載らない掛け声とでも言うべきボイスをちょくちょく挟むことで緊張感を高く保つ。全体と部分をいったりきたりしながら、かなりよく練ったのではないでしょうか。

後半部はボサノバですね。'Farmland' の "Sunday Monday" が思い出されますが、あちらのベースラインがだいぶ優しめだったのに対してこちらのものはかなりの骨太加減です。第七段からはそんなベースにつられてか、他の楽器たちも盛り上がりを見せ始めます。初めはエレキで爽やかにコードを弾いていたギターも、コードの単音引きが合流して厚みが増します。リムショットでおしゃれに決め込んでいたドラムも途中から音の座ったタムが入ってきますし、ボーカルも高音でハモリ始めます。

いやぁダイナミズムがよく練られてますよね。激しい → おとなしくおしゃれ → テイストはそのままで満足感のあるボリュームまで盛り上げる。匠です。