井上ジョー "迷えるO.L."

井上ジョー的 J-Rock 炸裂!

 

2018 年のアルバム ’Polyglot Musix #2' に収録されたこの曲。Polyglot とは多言語話者を意味する英単語で、同アルバムシリーズにはたくさんの言語で歌われた、その言語が話されている国や地域からイメージされるような曲調の楽曲が収録されてます。

 

例えば、"Ass in My Face (Bunda na Minha Cara)" はブラジル-ポルトガル語のサンバっぽい曲ですし、"Name Tag Song (Hey Frèce)" はフランス語で歌われていてアコーディオンのような音が聞こえてきたり。曲を聴きながら世界一周できるような感じですね。そんな中での日本語オンリー曲とあって、これはもうジョーさんの思う日本っぽさが爆裂してるはずなんですよ。タイトルからしていいですよね。しっかりわかりやすい韻を踏みながら、その情景を想像しやすいという秀逸さです。迷ってる OL ですよ。

 

 

聞いてみた印象、何となく日本でアルバムを出していたころの音色と似ている感じがしませんか? 'In a Way' は爽やかボーイの裏表が売りだと思うので、この曲を入れるにはちょっと硬派すぎる気がしますが、あの頃の音像に遊び心というか余裕というかを足したらこんな仕上がりになるんじゃないかなぁと。

ちなみに、働く若い女性を Office Lady と呼ぶのは日本だけです。というのも、これは和製英語ですのでそこからイメージされる景色(数人でランチに行くと同僚の目が気になって小食に見せかけてしまうとか、上司にお茶を頼まれてしまうとか)は日本独自のものなんです。英語では office worker と呼んで特別男女の区別はしないようです。

にしても、この毒づきながらも夢を見つづけてしまう OL の姿ってどうにもリアルですよね。ジョーさんがいわゆる OL の生態に触れる機会がどれほどあったかは定かではありませんが、この模写力はさすがの一言に尽きます。男女関わらず楽曲提供のオファーが来るのにもうなずけます。

圧倒的に自分でない人々を描出するとき、その立場に立って描くのと、それをステレオタイプに沿ってを描くのはもちろん異なることです。前者は自分のいる場所からは見えない部分を想像することでより深い気づきに遭遇し解釈できうる可能性がある一方、そのあくまで個人的な解釈を一般的な言説に引き上げることに失敗すると、思考の過程が見えない受け手を置いてけぼりにしてしまうリスクもあります。対して後者は、一般的に受け入れられている観念をなぞるだけなので大衆にわかりやすいですが、その裏側や向こう側にある真理を見逃しかねません。もっと実際的に言って、差別や偏見にどう立ち向かうか、などの命題に当てはめるとこの構造はすんなりわかりやすいと思います。

ただ、私がここで言いたいのは、それは誰にとってのステレオタイプか、ということです。先ほど言ったように、OL という「文化」は日本独自のものです。日本人のリスナーが、「あぁ OL ってこんな感じだよね」と感じられるような歌詞を書けること、異なる文化のステレオタイプを共有していることって、その実なかなかにすごいことなんではないかと。うぅむ、理解が深い。