井上ジョーのMV「幻」についての考察 pt.4

前回の記事はこちらです。

 

sean-s.hatenablog.com

 

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ラストのサビでは、星空のもとギターを弾き語るジョーさんと一緒に、物語のラストを迎えます。

 

(今回は、4:14-最後までを取り扱います。)

 

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ある夜、ひとり家路を歩く女性。家の近くまで来ると、道端には花束が添えられていました。それを見た途端、男性と手をつなぎ住宅街を歩いた記憶がフラッシュバックします。普通のようで、楽しかったあの日々。普通のようで、もう戻らない日々。ただ、彼女はもう悲しくなどありません。花束から「光」を受け取った彼女は、何かが払拭されたような、清々しくも感じられる表情で空を見上げます。すると、外套のポケットに入った携帯に着信が。どうやら誰かからメールが来たようです。確認して、また空を見上げると、満点の星空の中に流れ星が一筋注がれます。
画面は、いままでジョーさんが歌いながら座っていたと思しきソファの上に星型がついた携帯が置かれているのを捉えて、そのままフェードアウトしていきます。
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なかなかエモーショナルなサビですね。基本的に暗かったり曇りだったりするこのMVの中で、この回想シーンは一番明るく撮られているシーンなんですね。視聴者はこれが回想であると認知できると同時に、その思い出の中で満面の笑みを浮かべる女性を見て、そこに含まれている逆説を理解できます。これを瞬時に行うことができるという点で、非常に秀逸な構成ではないでしょうか。

さて、ここでまた謎となるのが、なぜメールが来たのかということ、そして、なぜジョーの手元に携帯があるのか、ということですーーと書いたところで、MVをもう一度見直してみました。すると、今まで全く気が付いていませんでしたが、初めから、ジョーの座るソファには携帯が置いてあったんです!! それも、画面に見切れるかどうかの微妙な位置に。気が付かなかった方はぜひ見返してみてほしいです(気づいていた方、どうも間の抜けた気づきでMVを締めてしまって申し訳ないです)。ただ、ここで興味深いのは、その携帯に星型がついていないことです。そして、最後アップになったときだけ、星型がついていることがはっきりすることです。
このことに理由をつけると、超絶的な飛躍を経て個人的結論に達するんじゃないでしょうか。

 

・女性の恋人とは、ジョーさんだった。

・ジョーさんのいる場所と、女性のいる場所は、今は同じ世界ではない。

 

ジョーさんが弾き語ったりソファで携帯を横に歌ったりするシーンはストーリーと同じくらいの割合を占めていますが、ずっと「部屋」の中ですね。それが、ラストのサビになると、急に「部屋」を出て星空の下で歌いだすんです。この後、回想シーンの後で一度「部屋」に戻りますが、また最後には星空のもとへ出てきます。この「部屋」は、女性とは違う世界にいることを意味しているのではないでしょうか。ジョーさんがいた「部屋」の壁は、その場所を世界と一切のつながりをもたない空間に、もう他人が立ち入ることのできない空間にしていたのではないでしょうか。

そう考えるとなぜ最後の最後に外へ出たのかということの動機がはっきりしてきます。涙に暮れる彼女を慰め、立ち直らせるためです。今ではもう「幻」だけど、こんな弱気な僕だけど、一度でもいいから君を救いに来たよ。そう言いながら「部屋」からでてきて「女性の世界」に現れたんです。そして、あの日失ってしまったキーホルダーは、その夜に降った流れ星としてジョーさんの携帯に戻ってきたんでしょう。そもそも、男女がおそろいのものをつけるのに、何も星の形に限ることはなくて、ハートでもなんでもいいはずです。そんな中で星型がその役目を担ったことには、きちんと理由があるはずです。星型のキーホルダーと満点の星、そして流れ星が離れ離れになった二人を結び付けたのではないでしょうか。